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広島高等裁判所松江支部 昭和29年(ネ)52号 判決

五二号事件被控訴人・五三号事件被控訴人 原告 野口武彦

訴訟代理人 田中節治

五二号事件控訴人・五三号事件被控訴人 被告 矢谷文造

五三号事件控訴人 参加原告 矢谷寿雄

主文

原判決中、原告と被告に関する部分を取消す。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告と被告に関する分は、第一、二審を通じ、原告の負担とする。

参加原告の控訴を棄却する。

控訴費用中、参加原告と原告並びに被告に関する分は、参加原告の負担とする。

事実

当庁昭和二九年(ネ)第五二号宅地明渡請求控訴事件につき、被告は、主文第一乃至第三項同旨の判決を、原告訴訟代理人は「被告の控訴を棄却する。控訴費用は被告の負担とする」との判決をそれぞれ求め、当庁同年(ネ)第五三号同控訴事件につき、参加原告は「一、原判決を取消す。二、原告並びに被告は、参加原告が、鳥取市東品治町一六九番一九宅地四九坪四合に対し、建物の所有を目的とする借地権(右宅地中、若桜街道に面し防火地域に属する三一坪五合六勺の部分については、堅固の建物の所有を目的とし、爾余の一七坪八合四勺の部分については、その他の建物の所有を目的とするもの)を、昭和三七年五月一二日まで有することを確認すべし。三、若し、右請求が認容されないならば、原告並びに被告は、参加原告が、右宅地に対し、右同一内容の借地権を、昭和一八年九月一〇日より二〇年間即ち昭和三八年九月九日まで有することを確認すべし。四、被告は参加原告に対し、右宅地を引渡すべし。五、訴訟費用は、第一、二審を通じ、原、被告の各負担とする」との判決並びに右宅地の引渡に関し、保証を条件とする仮執行の宣言を、原告訴訟代理人は、主文第四、五項同旨の判決を、被告は、参加原告の請求を認容する旨の判決をそれぞれ求めた。

各当事者の事実上の主張は、参加原告が左記のとおり陳述した外、いずれも原判決摘示のとおりであるから、茲にこれを引用する。

参加原告の陳述

一、昭和二七年八月二日建設省告示第一〇九五号及び第一〇九六号により、鳥取市の防火建築帯が指定された結果、参加原告が罹災都市借地借家臨時処理法第三条による申出によつて、被告から譲渡を受けた本件宅地に対する借地権の内容は、右宅地中、若桜街道に面し防火地域に属する三一坪五合六勺については、堅固の建物の所有を目的とするものに変更せられることとなつた。

二、仮に、右借地権の存続期間に関する参加原告の従来の主張が是認されないとしても、昭和一八年九月一〇日の鳥取地方大震災のとき、本件宅地上に在つた家屋が倒壊したので被告は直ちに同地上裏側に居宅一棟を建築し、次で昭和二二年中同地上表側に別の居宅一棟を建築したのであるが、原告先代野口寿彦或いは原告において、借地法第七条所定の異議を述べた事実がない。寧ろ原告先代が被告に対し地代の増額を要求し、当事者間に新なる地代に関する協定が成立した事実すらあり、原告先代は、被告の右建物の築造につき承諾を与えていたものということができる。されば、被告が有していた本件宅地に対する借地権は、借地法第七条により、大震災当日より二〇年間、即ち昭和三八年九月九日まで存続することとなつたのである。よつて、請求の趣旨三の如く予備的請求をする。

証拠関係は、原告訴訟代理人が甲第三号証を提出し、原判決事実摘示欄中に甲第六号証の一、二、三とあるのを甲第五号証の一、二、三と改め、参加原告が丙第一七号証を提出し、原告訴訟代理人並びに被告において、いずれもその成立を認めた外、原判決摘示のとおりであるから、茲にこれを引用する。

理由

よつて、先ず原告の被告に対する請求について判断するに、当事者間に争のない事実に関する点、被告先代米蔵が、被告主張の日、その主張の如き条件で、原告先代寿彦からその所有の本件宅地を含む元地たる鳥取市東品治町一六九番四宅地二一八坪六合二勺中一一六坪八合五勺三才を賃借し、これを占有するに至つた事実が認められる点及び原告主張の地上権仮登記は、被告主張の如く、原告先代と被告先代とが通謀の上なした虚偽のものであつて無効であることが認められ、従つて、この点に関する被告の自白の撤回が有効であることが是認される点に関する当裁判所の判断は、原判決の理由において説示せるところと毫も異らないから、茲にこれを引用する。されば右賃貸借は一応大正九年一〇月末日まで存続したものであることが明らかである。そして右期間経過後引続き被告先代において又、その死亡後は被告において右宅地を占有していたことは当事者間に争なく、而かも、当初賃貸人たる原告先代がこれを知つて異議を述べた事跡を窺うことができないから、右期間経過後は、民法第六一九条第一項により、前賃貸借と同一条件を以て更に期間の定のない賃貸借が締結されたものと推定されるべきである。ところで、鳥取市においては、昭和一六年三月一〇日、借地法が施行せられたのであるから、同法第一七条第二項の規定により、右賃貸借はその成立の日たる大正九年一一月一日から起算して、二〇年毎に契約の更新がなされたものとみなされ、更に同法条第一項の規定により、契約更新の時から起算して二〇年間存続することとなるのであるから、結局本件宅地を含む元地たる右宅地に対する借地権は、昭和三五年一〇月末日まで存続すべきものといわなければならない。然らば、被告の本件宅地に対する借地権は、その存続期間満了により既に消滅したということを前提とする原告の被告に対する本訴請求は失当であるというべきである。然るに、叙上の判断に牴触する趣旨に出でて原告の本訴請求を認容した原判決は不当であるから、原判決中、原告と被告に関する部分は、その取消を免れない。被告の本件控訴はその理由あり。

進んで、参加原告の原告並びに被告に対する請求について判断するに、先ず被告は差戻判決後、昭和二九年二月二六日及び同年三月二三日の原審第一、二回口頭弁論期日において、恰も参加原告の請求を認諾し、或いは参加原告の主張事実を自白するが如き陳述をなし、又当審口頭弁論期日においても右同趣旨の陳述をしているけれども、民事訴訟法第七一条による参加の申出がなされた本件においては、同法第六二条第一項の趣旨に照し、かかる認諾乃至自白は、原告の陳述に牴触する限り、何等その効力を発生するものでないことは更に贅言を要しない。さて、昭和一八年九月一〇日の鳥取地方大震災当時、被告が本件宅地上に、倒壊家屋の残材を利用して居宅を建築し、その後、東京で戦災を蒙つた参加原告が鳥取市に引揚げて来てから、右家屋内で居住するに至つたこと、而して右家屋は昭和二七年四月一七日の大火の際焼失したことは、原審における被告並びに参加原告各本人尋問の結果に徴し極めて明らかである。而して、参加原告は、右家屋は被告からこれを賃借していた旨主張し、成立に争のない丙第一三号証の一、二並びに右被告及び参加原告各本人の供述中、恰も右主張に符合する部分があるけれども、成立に争のない甲第六号証の一乃至四並びに原審における原告、被告及び参加原告各本人の供述を綜合、考察し、これによつて認められる諸般の事実と対比して仔細に検討するとき、参加原告の右主張に符合する部分は、到底これを措信するに足らないことが明らかである。即ち、前顕各証拠を通じ、参加原告が無償で右家屋に居住することにつき、被告においてこれを承諾していたに過ぎないものであることが窺われ、参加原告の右家屋に対する利用関係は、単なる使用貸借にしか過ぎず、決してその主張するが如き賃貸借ではないものと断ぜざるを得ない。然らば、参加原告は罹災建物の賃借人であるということができないから、たとえ、その主張の日、その主張の如く、被告に対して借地権譲渡の申出をなし、又、被告においてこれが承諾をなした事実があつたとて、罹災都市借地借家臨時処理法第三条及び第四条によつて借地権譲渡の効力が発生したものということはできない。されば、参加原告の原告並びに被告に対する本件参加請求は、爾余の争点に対する判断をするまでもなく、明らかに失当であるというべく、参加原告の請求を排斥した原判決は、その理由によれば不当であるけれども当裁判所の叙上の判断に照し、結局正当であることに帰着するから、参加原告の本件控訴は、理由がないものとして、その棄却を免れない。

よつて、訴訟費用中、原告と被告に関する分につき、民事訴訟法第八九条、第九六条を、控訴費用中、参加原告と原告並びに被告に関する分につき、同法第八九条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 平井林 判事 藤間忠顕 判事 組原政男)

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